大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)188号 判決

審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて検討する。

本願第一発明は、前認定のとおり、油脂を二酸化炭素により向流で、摂氏五〇ないし二五〇度の加熱及び一〇〇ないし二五〇気圧の加圧条件下で脱臭する方法であるところ、引用例(成立について争いのない甲第四号証)には、審決認定のとおり、脱臭装置の操作条件として、油脂の脱臭を二酸化炭素により向流で加熱、加圧下で行うことが記載されているものと認められるから、本願第一発明は、引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると認められ、これと同趣旨に出た審決の判断に誤りはない。

原告は、油脂の脱臭は、本願明細書に記載されているとおり、従前、比較的高い温度及び非常に低い圧力で長時間処理して行われてきたものであるから、引用例に示された加熱・加圧というのも、従前の公知技術における「比較的高い温度及び非常に低い圧力」の範囲でのものにすぎず、本願第一発明における摂氏五〇ないし二五〇度、一〇〇ないし二五〇気圧の組み合わせによるものを含まないことは明らかであり、したがつて、引用例の記載から本願第一発明に想到することが容易であるとすることはできない旨主張する。

なるほど、引用例における加圧は、その特許出願当時(昭和二二年)における周知技術の範囲内であると認められるせいぜい数気圧程度のものにすぎないと認められるけれども、少なくとも油脂の脱臭を加熱・加圧下で行うことは示されているところ、次に説明するように、本願第一発明において特定された範囲での加熱及び加圧の条件下での脱臭が、引用例の開示している加熱及び加圧の条件下での脱臭に比して、その効果において優れているものであることを示すに足りる証拠がない点からすれば、本願第一発明において、摂氏五〇ないし二五〇度、一〇〇ないし二五〇気圧の加熱・加圧の条件を選択した臨界的意義はないものというべく、結局本願第一発明は、加熱・加圧の条件下で脱臭を行うことをも示している引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるといわざるを得ない。すなわち、成立について争いのない甲第二号証の二(本願明細書)によれば、本願明細書には、本願第一発明の説定する温度及び圧力の範囲内で脱臭を行う場合には、脱臭された油脂は無味・無臭となつて遊離脂肪酸の含有量も激減することが、三つの実施例を掲げて記載されているけれども、本願発明の設定する態様以外の加熱及び加圧の条件下で脱臭を行う場合の効果との比較例は記載されていないから、これをもつて、本願第一発明が従前公知の脱臭方法に比して特に優れたものであると認めることはできず、また、成立について争いのない甲第八号証(本願発明の発明者の宣誓供述書)には、(1)摂氏二一度、一気圧(2)摂氏一四九度、一気圧、及び、(3)摂氏一六〇度、一五mmHgの各条件下で脱臭試験を行つた結果、いずれも臭いの改善はなく、遊離脂肪酸も減少しない旨の記載があるけれども、右の圧力条件はいずれも加圧ではないから、試験結果の脱臭成績がよくないからといつて、それをもつて加圧の条件下で脱臭を行うことを開示している引用例の脱臭効果が本願第一発明の脱臭効果よりも劣つていることの証左とすることはできない。その他本願第一発明の方法が、公知の方法に比して優れたものであることを示す証拠はない。

引用例の記載によれば本願第二、第三発明も、引用例に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとした審決の判断に誤りはない。

よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

本願発明は、発明の数が三であつて、各発明の要旨は次の1ないし3のとおりである(以下、次の番号に対応して、それぞれ「本願第一発明」等という。)。

1 脂肪及び油を、場合により同時に遊離脂肪酸の残含量減少下に脱臭するに当たり、精製すべき物質を有利には向流で二酸化炭素で摂氏五〇~二五〇度の温度、一〇〇~二五〇気圧の圧力で処理することを特徴とする脂肪及び油の脱臭法。

2 二酸化炭素流を循環させ、循環する二酸化炭素に吸収された随伴物質を有利には固体の吸着剤に固着させることを特徴とする右1記載の脂肪及び油の脱臭法。

3 吸着剤での随伴物質の分離を、出発物質の処理とほぼ同じ圧力及び温度条件で行うことを特徴とする右1及び2記載の脂肪及び油の脱臭法。

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